課題を模倣する大切さ

ルートセットの上達には、課題の模倣が不可欠です。経験値豊かなルートセッターなら誰しもが口を揃えて言うでしょう。しかし、その具体的な方法となると動画を見て真似をする、印象に残った課題を再現してみる、それくらいです。闇雲にただセットする量を増やしているだけよりはマシですが、要点がわかっていないと、上達の道が隔たっていきます。

これはクライミングの動作ひとつひとつにも言えることです。クライミングの上達は良い連動の再現性を上げることです。ただ闇雲に登っていると、変な動き(たとえば著しく肩が上がっている状態)を体が記憶していき、不自然な姿勢の達人になっていきます。一つの不自然な姿勢は次の悪い動きを誘発して連動します。こうして、隔たった上達の道を、もとの道に戻すのがどんどん難しくなっていきます。

練習には、練習の時間が必要です。毎日、コンペをやっていたら、効率的に上達することは難しく、容易に怪我や故障をしてしまうのはご理解いただけると思います。

ルートセットも同じかそれ以上に悪い結果になります。毎回、お客様用の課題を作る、ということは毎回コンペをやっていることと同じです。効率的に上達するのが難しいのは同じですが、ここでの問題は、怪我や故障をするのはルートセッターではなくお客様である、ということです。

しっかりと練習の時間を設けて、練習としてルートセットをしていきましょう。

良い基礎練に必要なもの

良いルートセットの練習に必要なのは、ディープな発見を継続させる基礎課題と、その要点をまとめたテキストです。それがこのブログです。基礎課題を作るためにのホールド選びは重要なファクターです。それを効率化したのがShojinholdsです。

世界中に優秀で奇跡的に完成度の高いホールドがたくさんあります。しかし、あまりに膨大にホールドがあり、しかも流行り廃り、ブランド力や価格などの異なる要素を含んでいるため、基礎課題を年中セットしているような熟練のルートセッターにならないと基礎に最適なホールドの選択は難しいのが現実です。

  • 効率的なルートセットの練習=セットの模倣
  • ホールドの選択の練習=基礎を理解しやすいホールド

この2つの考え方からShojinholdsが生まれ、まさにルートセットの基礎を学ぶために必要な環境を作る基盤ができました。

模倣するべき課題

模倣するべき課題を見つけるのは大変です。通常は、自分の興味がある、かっこいいと思う、そんな課題をチョイスしがちです。それが始まりでいいのでしょうか?そんな主観的な始まりのテキストにはなかなか出会えません。

派手ではなく、ちょっと見ても普通だし、興奮なんてしないし、かっこいいとも思わない。それは基礎の重要なポイントです。派手なものは突飛なものです。基礎で興奮する人は変人です。基礎技術を高いレベルで習得しているクライマーが基礎課題を登っていても、普通にしか見えません。基礎は普通なことを普通にする技術です。

ただの普通の課題。基礎を身につけるのに最適な課題。それを淡々と模倣し、練習し、煮詰めていくのが基礎練習です。地道で辛いことです。しかし、あなたがまだルートセットの基礎知識が少なければ、基礎課題の模倣は毎回驚くべき発見に満ちるでしょう。発見とともに、当然、多くの疑問が出てくるでしょう。その疑問は充実した基礎を作り上げるのに必要不可欠です。

基礎課題の構造がどうなっているかを説明するのは極めて困難です。例題を見ていただければわかると思いますが、全てのホールドがちょうど良い位置とバランスで成り立っています。そのホールドがそれでなければならない理由を述べるには、同じ程度の感覚と経験値を共有していなければなりません。共有していない時点で話の理解はずれていくでしょう。ルートセッティング講習会で最も難しい部分です。

実際にフィジカルな講習でも困難を極めることを、ブログ上で解説することは不可能です。何度も何度も考え直しましたが、諦めました。ですので、このブログに公開されている課題をコピーし、注意点を読み、課題を登っている動画を見比べ、自分自身のクライミング技術の隔たりと各ホールドのフィット感を感じてください。やりにくいと思ったならば、その原因を探すことに妥協しないでください。実際に課題をやりたければ設置してあるジムに登りにいってもいいでしょう。

このプロセスを何回も何回も繰り返すことが、上達の最短ラインです。何百回も登って何十回も同じ課題をセットするのです。目を瞑ってもセットできるくらい、想像するだけでホールドの持ち感が蘇るくらいになって初めて、その課題の基礎要素を吸収したと言えるでしょう。逆に言うと、そのくらいにならない限り、しっかりした基礎は身につかないのです。

Shojinholdsの意義

基礎習得の道のりはご理解いただけましたでしょうか?

この長い道のりこそ、我々が作るものが、ホールドでもあり、教材でもあるという理由です。クライミング以外のどのスポーツ、どの職業に当てはめても同じです。良い基礎の習得は、良い環境、良い練習、良い道具から生まれます。良い指導者と良い仲間に恵まれれば言うことありません。

良い環境は難しくとも、良い道具を提供し、良い練習を提案することはできます。Shojinholdsはあくまで教材です。基礎的なホールドの付け方を通して、ホールディングの基礎、フットワークの基礎、力の使い方の基礎、上達の基礎への理解を深めてもらい、ジムでトレーニングするクライマーの怪我・故障を減らし、高齢になっても、シャキっと背筋が伸びて優雅なクライミングフォームで一般の人の目を惹くような、そんなクライマーに増えて欲しい。そこにはホールドのつき方一つ、向き一つで興奮して共感し合える仲間に溢れていることでしょう。

そんな未来を願って。

コメントを残す