偶発性を発揮する「5つの要素」

(2016年6月のハカセレポートより。)Climber: OJIKI / Camera: Backyard coffee

ルートセットにおいて、偶然的な出会いを発見し、新たなる動きを創造することは1番の醍醐味だ。

独自のムーブとして確立させる為には偶然的な要素が重要なヒントとなるが、それは日々の努力と挑戦、そして経験によって生み出される。

アイデアの発掘は偶然であるが、しかし必然でもある。

研究においての偶然性

研究過程におけるセレンディピティによる発見についてはこう書かれている。

「観察の領域において、偶然は構えのある心にしか恵まれない」
広くアンテナを張り巡らし、適切な記録をとり、わずかな兆候を見逃さず、いろいろな解析処理を試せるだけの技能とチャレンジ精神を持ち、適宜研究計画にフィードバックを加えるといったことが出来るぐらいに訓練された人間以外にはなかなかこのような幸運は訪れない。
https://ja.wikipedia.org/wiki/セレンディピティ

偶然性を発揮する要素

ルートセットに言い換えれば、

  • 広い視野での情報収集
  • 適切な記録として残す
  • ディテールに拘る=細かい部分に目がいく
  • 様々なムーブを試せるだけの技術とチャレンジ精神を持つ
  • 常に自分のセッティングにフィードバックを加える

このような感じになると思う。

どの程度この条件に当てはまるだろうか。ルートセッターとはある意味でムーブの研究者だと思う。世界中で行なわれているムーブの研究結果を把握し、自身のセットに加えて成長させ、常にわずかな兆候にこだわり、修正とチャレンジを継続してこそ、ささいなきっかけに伴う偶然的な出会いを引き寄せ、新たなムーブを創造することができるのである。

ルートセットは偶然の積み重ねだ。思い返してみると、フットホールドひとつ、ハリボテのつき方一つから多くのイマジネーションを引き出して形にするという作業がそもそも偶然が積み重なっているものとも言える。その全ての選択に挑戦や妥協、きっかけや出会いがある。

実際に、ムーブも全て考えて決めて貼り付けた課題を試登して、核心では無い、ふとした部分のパーツ・ホールドが目に入り、なんとなく課題ラインと異なる方向の壁形状と見合わせたりして、「もしかしたらここからこんなムーブに発展できるかも!」と、ちゃぶ台返しを断行し、今まで想像もしていなかったようなホールドの使い方や新しい体の使い方、ムーブを生み出す時がある。

その時に気がつかなかったら素通りしてしまう部分であって、自身の経験の積み重ね、基礎能力の厚みに加え、それが起こった偶然のなせる技だ。セッターにとって、幸せな瞬間のひとつだ。

前述したリストは、新しい可能性を引き出せるルートセッターの条件とも言えるし、ひいては新しいものを創造する全ての人間に共通する条件かもしれない。

まとめ

広い視野での情報収集

先進的なルートセットはもちろんだが、動作を研究して長い異なる競技·研究からもセッティングにつながる情報に敏感でいるようにする。

適切な記録として残す

セッティングの記録は、SETTING SHEET* などにまとめ、後から確認できるようにする。特に大事なものは、Changes / Notesの部分で、何をどうしたかをメモできる欄が読み直すことで経験値がアップする。例えば、「プッシュで安定させないために、凹角の外側の足を内側に10cm移動した」など。ここには様々なトライがあった結果の調整方法がある。文章で見ると、ほうほうそうか、となるが実際に現場ではあれこれと位置を変えホールドを変え、やっとのことでそこに行き着く、という方が自然ではなかろうか。その結果を短文として残すことは、自分の調整能力を引き上げることにつながる。 *Setting Sheetというのはセットを記録するシートのこと。

ディテールに拘る

常に細かい部分まで拘っていれば、自然とそういう部分に目がいくようになる。逆に、拘らないようにやっていると、気がつくと目がいかないようになっている。その繰り替えしもまた経験になるとも言えるが、それよりもより一層ディテールに目がいくようになることの方が良いと思う。常に細かい部分にこだわること。それは妥協を最小限に留め、理想の課題を諦めないこと、のように思える。

技術とチャレンジ精神を持つ

新しい動きを思いついたとしても、それを実現する基礎技術や応用、そして経験の積み重ねがなければ良きアイデアでも失敗、もしくはダメなアイデアとなってしまう。自分やメンバーの技術力をできるだけ的確に認識し、且つ、新しいアイデアを実現する為に挑戦を続けることが大切だ。リスクを許容し、諦めずにチャレンジを続けていれば、それらを具現化させられるチャンスが得られる。

常にフィードバックを加える

もちろんフィードバックがなければ成長は止まる。成長はフィードバックとともにあることは明確だ。新しいアイデアとはそう簡単に実現することではない。だから、努力の結果、実現できなかったとしても終わりにせず、適切な記録として残しつつも次回、また次回とフィードバックしていく必要があり、そうすることで、そのフィードバックがまた新しいアイデアや偶然的な出会いを生む。