ルートセットを深堀りする(2/3)

今回は、具体的に何をどう深掘りしていけばよいのか考えてみます。

まずはルートセッターの至上命題「良い課題」に必要な要素を分析するところから始まります。「良い課題」とはどんな課題でしょう。考えつく要素をリストアップしてみましょう。

  • 楽しい
  • グレードが適正
  • 危なくないこと
  • セッションで盛り上がれる
  • 技術が身につきやすいこと
  • 課題の見た目がかっこいい / 色が揃っていて見やすい
  • 持久力・瞬発力・保持力トレーニングができるもの
  • 指や体のダメージが少ないこと
  • かっこいいムーブ / 特殊なムーブ

こんなところでしょうか。

こうしてリストアップしてみると、この内容が非常に抽象的で曖昧なものだと気付きます。例えば「グレー ドが適性であること」。「適正なグレード」とは一体どういうものであるか考え抜いてみると新しい発見や一歩先の理解があるかもしれません。

クライミングにおける主観的で曖昧な表現やステレオタイプを疑って、本質を見つけようと考えること。これなしにルートセッティングの上達はあり得ません。


「適正なグレード」を掘り下げて考えてみる

適正なグレードと言っても、ご存知の通りジムや人によって実に様々です。敢えて言えば、一般的なグレードから逸脱したものは適正とは言えません。いずれにせよ答えの無い話ではありますが、だからこそ定期的に自分にとっての”グレード感”について掘り下げて考えてみるのが大切です。

「6級までは腕を伸ばして登れる課題」としてグレードを判断しているジムの話を聞いたことがあります。また、「デッドポイントが含まれたら最低でも5級」など非常に具体的なグレード判定をしています。客観性を持たせるという意味では分かりやすく、良い例かもしれませんが、便利でわかりやすいものにはリスクも伴います。

「システム化、簡易化」で損なうもの

課題の性質やそれに含まれるクライミング技術は複雑で多様です。その多様さをシンプルに分け、システマチックにすることで課題の良さの判断基準が狂い、そのグレードの課題の可能性を閉ざしてしまう可能性が大いにあるのです。深く考えることをやめてしまう、とも言えます。

実際は、こういったルールがグレードの統一感を目指していたことだとしても、ルートセッターは総じて誤った見識や判断をしながら課題を作成することになるのは確実です。考えることでそれがわかります。そもそも腕を伸ばす行為が初心者にとって優しく、適切なのかどうか。6級であろうが10級であろうが、腕を伸ばしたまま登るクライミングなど必要無いし、7級であってもデッドポイントを上手に使うことを覚えられる課題が必要な場合も沢山あるし、スタッフの中に「スタティック=易しい」という誤った考え方が定着してしまう恐れもあります。メリットがありません。

そもそも2020年にもなって、腕を伸ばす方が良いという安直で意味不明の考え方をしていること自体が信じられません。こうした一定の動きで方向性を決めて、イントラクションを簡易にしてしまうことによって、実に多くのクライマーが悪い癖を伴ってきている歴史と現実を認識しなければいけません。

お客様のクライミング技術の向上の妨げになってしまうような課題ができてしまうリスクを持ちながら、それでいてルートセッターの成長や可能性を損なうグレーディングシステムは、間違いなく適正とは言えません。

グレーディングのゆらぎを利用する

私が今まで考えてきた中でもっとも適正だと思えるジムにおけるグレーディングとは、お客様の成長に合わせた適度なコントロールです。現状、今のお客様がどの程度成長しているのか、どのレベルのどの程度のお客様がプラトー気味なのか、モチベーションが上がっているのか、保持力に頼りすぎているのか、一定のムーブや傾斜での得意不得意の差が大きいか。そのような情報をスタッフで共有し、それぞれのグレードを登り込むお客様の成長促進の為に、セットする課題の方向性を決め、より繊細な技術を認識させるのであれば厳しめのグレード設定(ムーブがシビア)に、上のグレードにプッシュさせたい時には優しめのグレード設定(ムーブがゆるめ)にしてみます。

時にグレードごとの難易度の幅に隔たりが出てしまってもかまわないと思います。大前提として、そもそもグレードなどあってないようなものです。それでも、クライマーにとっては大変重要な指標ですから、これをうまく利用してお客様の成長を促進していく一つの材料として使うこと。それが、ジムにおける「適正なグレード」であり、そのグレーディング方法であるというところが現在のところの結論です。

簡単にまとめると…

プラトー気味な場合: 大きめの動きの課題を増やし、グレードを甘めにする

成長加速時期: 高水準のフォームが必要な課題を増やし、グレードを辛めにする

それぞれの具体的な内容は適宜スタッフ感で考えてプランニングしなければなりません。その都度セッターとインストラクターが話し合って試行錯誤していくことで、お客様しかり、スタッフ側にとっても非常に有意義なスキルとなっていくはずで、そうした試行錯誤の積み重ねで、その環境のクオリティというものが総合的に上がっていくのだと思います。

さて、次回はまたその他の項目について考えてみましょう。

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